- 19頁 - 第2章 新たな図書館像の実現に向けて - 20頁 - 1 蔵書・レファレンスの充実 図書館には、すべての方が知識や情報を得ることができる権利を保障する、大切な役割があります。これからも、この役割は変わることはありません。世界には多種多様で大量の知識や情報が存在します。生成AIなど新たな技術が誕生する時代のなか、これらの技術を使い、情報を主体的に選び、創造できるメディア情報リテラシー※が大切です。 図書館は、それら膨大な知識や情報への入口であり案内役となります。 また新たな図書館像の実現に向けて、今後は体験・遊び、交流等の機会が増えていきます。そこから生まれる興味や、好奇心、主体的な学びを支えるためにも、蔵書・情報を充実させます。 ※メディア情報リテラシー:UNESCOにより提唱された、メディアリテラシーと情報リテラシーを統合した概念であり、ニュースリテラシーやデジタルリテラシーなど他の様々な関連するリテラシーの概念を包含する。個人的、職業的、社会的な活動に参加し従事するために、批判的、倫理的、そして効果的な方法で、市民が、さまざまな道具を使いながら、あらゆるフォーマットの情報やメディアコンテンツを共有するだけではなく創造することができ、アクセスし、探索し、理解し、評価し、活用することができるようになるための一連の能力を表す。(「令和4年版情報通信白書」(総務省)より) (1) 蔵書の構築 中央図書館・地域図書館それぞれが、地域の特性を踏まえた特色ある蔵書を持ち、そして市立図書館全体として、幅広くバランスの良い蔵書を構築するとともに、活字だけでない多様な情報の収集にも取り組みます。 蔵書の構築にあたっては、いつでもどこでも本にアクセスできる電子書籍の普及状況、インターネットで得られる情報の社会動向などを踏まえながら、紙とデジタルとの最適なバランスを考慮します。 (2) レファレンス  司書はレファレンスサービスとして、様々な情報を市民の皆様につなぎ案内するとともに、地域の知・文化のコーディネーターとして人とまちと図書館をつなぎます。 (3) 保存環境の整備 市立図書館の収容能力が限界に近付いていますが、未来の市民や地域に、情報・知識・文化を届けるため、地域資料を含む蔵書の適切な保存環境を検討します。  - 21頁 - 2 図書館の施設整備の考え方 横浜市立図書館は、施設・設備の老朽化が進んでおり、建替えの検討を始める時期を迎える図書館もあります。 新たな図書館像の実現にあたっては、財政ビジョンで示すファシリティマネジメント※の考え方と財政負担を考慮し、1区1館を基本としながら、 機能の拡張とアクセシビリティの向上の両立、脱炭素社会の実現を目指し、施設整備等を進めていきます。 現地での建替えやリノベーションを基本としつつ、より利便性の高い主要駅周辺等への移転などにより、アクセス性や空間確保を向上させます。 ※財政ビジョンで示すファシリティマネジメント:「横浜市の持続的な発展に向けた財政ビジョン」に掲げた資産経営アクションの取組。都市経営の観点から、本市が保有する土地・建物等の「資産の戦略的利活用による価値の最大化」と「公共施設が提供する機能・サービスの持続的な維持・向上」の2つの視点から、保有のあり方・維持管理・利活用の最適化を図る考え方 (1)機能拡張 「新たな図書館像の5つの基本方針」を軸として、各図書館の立地、地域特性等を踏まえ、機能を拡張します。 (2)立地 現地での建替えやリノベーションを基本としつつ、市街地再開発などの動向を捉え、より利便性の高い主要駅周辺や、より魅力的な空間形成が図られる場所への移転などにより、アクセス性や空間確保を向上させます。 (3)規模 集客圏の広さなど、立地場所が持つ地域特性などを考慮し、より幅広い利用が期待できる場所で整備する場合には、想定される圏域・利用人口を勘案した規模とします。 - 22頁 - 3 新たな機能・機能拡充に伴う空間づくりの考え方 (1)子どもや子育て世代が利用しやすい環境づくり 子育て世代の方からは、子どもが遊べ、にぎやかな声を出せ、食事をとれるスペースへの高いニーズがあります。 未来を担うすべての子どもたちが、幼い時から図書館で読書を楽しめるように、子どももその保護者もくつろいで過ごせるインクルーシブな環境づくりを進めます。また子どもたちが一人でも安心して過ごせ、地域とのつながりも感じられる空間づくりを進めます。施設の充実により、図書館は、「自ら学び 社会とつながり ともに未来を創る人※」づくりを支えます。 ※自ら学び 社会とつながり ともに未来を創る人:「横浜教育ビジョン2030」(平成30年2月策定)の、横浜の教育が目指す人づくりより 子ども・子育て世代が来館しやすく、利用しやすい、インクルーシブな施設・設備の整備を行います 安全・安心・清潔な環境整備を進めます 子どもたちの声が許容され、くつろいで過ごせる空間づくりを行います。 気軽に図書館に来られるよう、子どもたちの遊びや学びの場を整備します。 空間の整備とともに、スペースや地域性に応じて見守りなどのスタッフを配置します。 ■環境づくりのアイデア 子どものための環境 靴を脱いで過ごせるスペース 子どもの遊び場 安全・清潔な空間 子ども用トイレ 子育て世代のための環境 安心して子どもを連れて来られる見守りやすいスペース 子どもが声を出してもよい環境 飲食が可能なスペース 一時預かりスペース - 23頁 - (2)居心地のよい空間づくり 現在の市立図書館は、来館した方に本の閲覧・貸出を行うことを中心に考え施設・設備を整備しています。しかし、特に地域図書館では閲覧席が少ないなど、図書館に滞在し、じっくり読書や学びに向き合うことが難しい状況があります。 これからの図書館では、子ども・子育て世代、高齢者の方、障害のある方など、多様な利用者のニーズに応えられる、滞在したくなる、居心地のよい空間づくりを進め、図書館で過ごす中で様々な活動に触れられ、参加を後押しできる場となります。そのために必要な、くつろぎや体験・実践、交流・にぎわいの空間など、地域性と施設規模に応じた諸室を配置します。 各館の地域性を踏まえて修繕・改修、リニューアル、増築、移転などの機を捉えて、必要なスペースや諸室を配置し、一人当たりの面積を拡大します。 諸室の配置にあたっては、社会や市民ニーズの変化に柔軟に対応できる、仕切りが少ないなど、機能拡張性をもつ施設の整備を進めます。 子ども・子育て世代、高齢者の方、障害のある方など、多様な利用者のニーズに応えられるよう、再整備にあたっては、利用者が必要としている環境を考慮し、施設内の時間的・空間的ゾーニング、スペース・諸室及び設備の配置などを進めます。 スペースと過ごし方のイメージ【図】 仕切りの無い自由度の高いスペースとゆるやかなゾーニングの間に 〈交流・にぎわい・複数人数〉 キッズスペース 読み聞かせスペース グループ学習室 〈くつろぎ〉 体験・実践のスペース カフェなど飲食スペース 資料閲覧スペース 〈静寂・集中・一人〉 学習室 調査研究ブース - 24頁 - (3)体験・交流の場づくり 得た知識・情報は、体験、実践することによって、実感を伴うものとして理解を深めることができます。初めてのことであっても、試行錯誤を繰り返すことにより、自分自身の知識・技術として蓄えることもできます。体験のなかで、まだ、答えがない問いと出会ったときにも、調べたり、他者と交流し互いに知恵を出し合うことで、新たな知識や解決策を生み出すこともできます。 これまでの図書館は、本の貸出しと情報を届けるサービスを中心に実施してきました。これからの図書館では、従来のサービスに加え、体験と実践、交流の機会を充実させていきます。 読書で得た知識を、体験につなぎ、参加者同士で共有し、深めあうことができるようなスペースや備品を備えます。 備えるスペースは地域特性等と施設規模の状況を踏まえて配置します。 知識や経験が豊富な方を講師に招いた企画を実施します。 市の事業や、まちの多様な団体や機関とつなぐなど、様々なアプローチで参加者の興味や好奇心に応えます。 【表 活動例別の必要スペースと備品】 分類 体験・実践 活動例 ものづくり(美術・工芸など) スペース クラフトスタジオ 備品 工具、ミシン、3Dプリンター、印刷機、コピー機 活動例 料理 スペース キッチン 備品 調理器具 活動例 演奏 スペース 防音スタジオ 備品 アンプ、楽器 活動例 華道・茶道 スペース 和室 備品(記載なし) 活動例 ダンス・演劇 スペース スタジオ 備品 音響設備 活動例 動画制作 スペース スタジオ 備品 スクリーン、プロジェクター、動画編集機材 分類 交流 活動例 討議・発表 スペース グループ学習室、会議室(ガラスウォールなどを用いた活動の様子が見えるスペース) 備品 スクリーン、プロジェクター、ガラスウォール - 25頁 - 4 図書館外のサービスポイント設置の考え方 図書館サービスへのアクセスを向上するため、図書館以外で本を借りたり返したりできるサービスポイントを拡充します。 また、電子書籍の導入状況や本の配送増加への対応等も考慮しながら、サービス空白地の地区センターなどでも設置を進め、図書館サービス全体の充実と利便性を向上させます。    あわせて、本市には、地区センターなど本を読んだり、借りたりできる施設が多くあります。図書館はこれらの施設と連携し市民の皆様が身近な場所でさらに読書に親しめるように支援します。 (1)図書取次所 図書館サービスへのアクセスを向上するため、交通結節点や集客力の高い周辺商業施設等に図書取次所の設置を進めます。 交通結節点や商業施設等での設置を基本とし、サービス空白地かつ多くの利用が見込める地域にある地区センター等の身近な公共施設等においても設置を進めます。 (2)移動図書館 図書館や図書取次所の配置を念頭に置きながら、効果的なサービスの実施を進めます。 【地図 図書館・図書取次サービス実施場所の配置(令和5年度)】 - 26頁 - 5 効率的・効果的なサービス提供とツールの充実/デジタル技術の活用によるサービスの最大化 図書館の機能拡充に伴い職員が担う役割も多様化していきます。加えて、横浜市では人口が令和3(2021)年にピークを迎えその後、本格的な人口減少社会に突入する見込みであり、様々な場面で担い手不足が生ずる懸念があります※。 デジタル技術の活用により、サービスを向上させるとともに、定型的な業務の効率化を図り、司書が専門性を活かした利用者サービスにさらに注力できるよう検討します。 ※「横浜市中期計画2022〜2025」より <取組の例> ICタグの導入 ICタグは、市民の利便性向上や窓口・物流業務の効率化の観点から、非常に有益なツールであり、他都市の図書館でも導入が進んでいます。例えば、貸出・返却のセルフサービス化、予約本の受け取りのセルフ化・対応時間の延長、自動化による人的コスト削減、不正持出防止が可能となります。 ICタグの導入により、複合施設内では、施設内のどこででも図書館の本を自由に持ち歩けるようになります。施設の機能融合の実現のためにも、ICタグの導入が有効です。 本市の蔵書は400万冊以上あり、導入時の金銭的・人的な負担が大きいと想定 されることから、詳細な調査を行い、効率的かつスムーズな導入が求められます。 AIチャットボットやロボットの導入 問合せへの対応としてAIチャットボットやロボットの導入が想定されます。 返却された本を書棚まで運搬するロボットなども、海外の図書館で導入されています。 【写真 ICタグを活用した自動貸出機】 - 27頁 - 6 多様な主体との協働・共創 横浜市にはたくさんの団体、組織、企業等があり、地域で活動する市民の方がいます。これらの数多くのプレイヤー(主体)の存在が横浜市の大きな強みであり特徴です。 共創によって様々な取組を推進するとき、市立図書館は、様々な人と情報をつなげるコーディネーターとなります。市立図書館は常にオープンマインドで、様々な主体と手を取り合って、社会や市民ニーズの変化に応じた知識・情報サービスを創り、提供する開かれた図書館となります。  市立図書館が社会の変化に柔軟に対応し、進化し続けるために、司書は地域に出向いて、ニーズや知見を学び、図書館運営や、新たなサービスに反映させるとともに、コーディネーターとして、人とまちと図書館をつなぎます。多様な主体との協働・共創により、数多くのパートナーシップを構築します。 【表 連携の対象と取組例】 連携の対象 市民 取組例 日常的に市民と対話しニーズや関心を捉えた図書館運営 市民とともに取り組む、図書館サービスの開発・提供 連携の対象 地域の団体・NPO 取組例 団体等の活動内容を集め図書館で提供 団体等と連携した様々なサービスの開発・提供 図書館と団体等との連携による地域課題解決に向けた活動の実施 連携の対象 大学・研究機関 取組例 大学や研究機関が有する専門的な知見をもとにした、図書館サービスにおける助言・協働や研究・学習プログラムの共同開発 連携の対象 民間企業 取組例 民間企業等との共創による、多様な体験の場の提供   連携の対象 子育て支援施設・学校 取組例 市の子育て事業と連携した取組 学校の課外活動や委員会活動と連携した、地域での体験・交流につながる取組 連携の対象 そのほか 取組例 新たなパートナーとのつながりづくり 【イラスト 横浜市立図書館と様々な主体との関係図】